コラム Column
近年、太陽光発電のセカンダリー市場が急速な成長を遂げています。FIT制度の買取価格低下や新規適地の減少という厳しい環境の中で、なぜ中古太陽光発電への投資が熱い視線を集めているのでしょうか。
本記事では、公的機関のデータをもとに市場規模の推移を明らかにしながら、セカンダリー投資が注目される背景と具体的な投資メリット、さらには投資判断で押さえるべき重要ポイントまで、包括的に解説します。特にメガソーラークラスの大型案件投資を検討されている法人投資家の皆様にとって、市場の実態と今後の展望を理解する上で必読の内容となっています。
急拡大する中古太陽光市場の全貌を、データとともに紐解いていきましょう。

中古太陽光発電市場、いわゆるセカンダリー市場は、2017年以降顕著な成長トレンドを示しています。この市場拡大の背景には、FIT制度の成熟化と太陽光発電事業を取り巻く環境変化という、複数の構造的要因が絡み合っています。
資源エネルギー庁のデータによれば、2024年12月末時点でのFIT・FIP認定量は約8,010万kW、導入量は約7,380万kWに達しており、この膨大な既存設備ストックが、セカンダリー市場の潜在的な供給源となっているのです。特に注目すべきは、10kW〜50kWの小規模事業用太陽光案件が多く、事業用太陽光発電のFIT・FIP導入量全体に占める割合が容量ベースで32%程度となっている点です。これら小規模案件の多くが、今後セカンダリー市場に流入する可能性を秘めています。
市場拡大を牽引する要因は単一ではありません。新規案件における買取価格の大幅な低下、建設適地の減少、そして何より既存オーナーの売却ニーズの高まりが、複雑に絡み合って市場を形成しています。さらに、太陽光発電設備の技術進歩による長寿命化も、中古案件の資産価値維持に寄与し、投資対象としての魅力を高めています。
FIT制度開始から10年以上が経過し、いよいよ買取期間終了を見据えた動きが活発化しています。2012年度に40円/kWhという高額な買取価格でスタートしたFIT制度ですが、2024年度には事業用(50kW以上250kW未満)で9.2円/kWhまで低下しました。この価格差が、高額買取権を持つ中古案件の希少価値を押し上げているのです。
2012年から2014年頃に認定を受けた案件は、20年間の買取期間のうち既に10年以上が経過しています。これらの発電所オーナーの中には、減価償却期間の終了やポートフォリオの見直し、あるいは事業再編を理由に売却を検討するケースが増加しています。実際、矢野経済研究所の調査では、稼働開始後の太陽光発電所を取引するセカンダリー市場について、発電出力ベースで市場規模を算出しており、この市場が着実に拡大していることが確認されています。
また、企業の資金需要の変化も売却ニーズを後押ししています。新型コロナウイルスの影響を受けた企業の中には、経営資源の集中や資金確保を目的として、保有する太陽光発電所の売却に踏み切るケースもあります。加えて、投資目的で複数の発電所を所有していた投資家が、利益確定のタイミングとして売却を選択する動きも見られるのです。
FIT制度の買取期間が残り10年を切った案件でも、高い買取価格が適用されている場合は依然として魅力的な投資対象となります。買取期間終了後の「卒FIT」についても、電力市場での売電や自家消費への転換など、新たな収益モデルが模索されており、これが中長期的な資産価値の維持につながっています。
新規太陽光発電所の開発を取り巻く環境は年々厳しさを増しています。設置年別に事業用太陽光発電の資本費の構成変化を見ると、パネル費用は2013年から2024年までに▲60%低減しているものの、適地の減少に伴う土地取得費用の上昇や、複雑化する許認可手続きによるコスト増が、初期投資額を押し上げています。
特に地上設置型の新規案件では、平坦で日照条件の良い適地が減少し、傾斜地や遠隔地での開発を余儀なくされるケースが増えています。こうした条件の悪い土地では、造成工事費用や送電設備の接続費用が高騰し、事業採算性の確保が困難になっているのです。さらに、地域住民との合意形成や環境アセスメントへの対応など、開発期間の長期化も初期投資リスクを高める要因となっています。
一方、中古案件では既に発電所が完成しており、土地造成や設備設置、系統連系といった初期段階の不確実性が解消されています。中古太陽光発電物件は、土地の選定から造成工事、設置工事、連系工事などの工事及び手続きなどが済んでいるため、購入後すぐに売電収入を得られるという即効性が、大きな魅力となっています。
また、新規案件では系統接続の制約が深刻化しています。再生可能エネルギーの急速な普及により、電力会社の送電網には空き容量が減少し、新規の接続が困難になっている地域も増加しています。九州などの一部地域では出力制御(発電の強制停止)が実施されるケースもあり、こうしたリスクを考慮すると、既に系統連系済みの中古案件の価値がさらに高まるのです。
投資家の視点からは、リスクとリターンのバランスが重要です。新規案件の高い初期投資リスクと開発の不確実性を回避し、実績データに基づいて収益性を評価できる中古案件へのシフトは、合理的な投資判断と言えるでしょう。
太陽光発電設備の技術進歩は目覚ましく、特にパネルの耐久性と変換効率の向上が、中古案件の資産価値維持に大きく貢献しています。初期のFIT制度下で設置された設備であっても、適切なメンテナンスを行えば20年を超えて稼働を継続できるケースが増えています。
主要メーカーの太陽光パネルは、一般的に25年から30年の長寿命を持つと言われています。多くのメーカーが25年間の出力保証を提供しており、25年後でも初期出力の80%以上を保証するという品質水準です。実際の経年劣化率は年間0.5〜0.7%程度とされており、これは当初の予測を下回る良好な数値となっています。
パワーコンディショナー(PCS)についても、初期の製品と比較して信頼性が大幅に向上しています。メンテナンスや部品交換を適切に行えば、発電所全体として長期的な稼働が可能です。中古案件を購入する際には、既にPCSの交換時期を過ぎている、あるいは近い将来交換が必要な場合もありますが、この点を価格交渉の材料として活用できるという側面もあります。
遠隔監視システムの普及も、中古案件の資産価値維持に寄与しています。リアルタイムで発電状況を監視し、異常を早期に発見できる体制が整っていれば、トラブルによる発電損失を最小限に抑えられます。データ蓄積により、設備の健全性を客観的に評価することも可能になり、これが売買時の価格形成にも影響を与えています。
さらに、固定価格買取制度(FIT)の認定を受けた太陽光発電の導入費(資本費)は、2023年に設置した場合で1kWあたり28万円だった。10年前の2013年に設置した場合(37万円/kW)と比べて24%減少し、特に太陽光パネルは45%低下していることから、将来的な部品交換のコストも抑制される傾向にあり、長期的な事業継続がしやすい環境が整っています。
中古太陽光発電市場の成長は、具体的な数値で明確に示されています。市場調査データと公的機関の統計を組み合わせることで、この市場がいかに急速に拡大しているかが浮き彫りになります。
セカンダリー市場の規模を正確に把握することは、投資判断において極めて重要です。市場の成熟度や流動性、価格形成のメカニズムを理解することで、より戦略的な投資アプローチが可能になるからです。ここでは、公的データに基づく市場規模の推移と、その背景にある取引動向を詳細に分析していきます。
太陽光発電セカンダリー市場の規模は、2017年以降急速な拡大を見せています。矢野経済研究所の発表によると、2017年度に発電出力ベースで300MWだった市場規模は、2021年度には1,200MWまで拡大すると予測されており、わずか4年間で4倍という驚異的な成長率を示しています。
この急成長の背景には、FIT制度開始初期(2012〜2014年)に認定を受けた案件が稼働から5〜10年を経過し、売却を検討するオーナーが増加したことがあります。高い買取価格(40円/kWh前後)が適用されているこれらの案件は、残りの買取期間でも十分な収益性を持つため、投資対象として高い人気を集めているのです。
2020年以降の市場動向を見ると、新型コロナウイルスの影響で一時的に取引が減速した時期もありましたが、2021年以降は急速に回復し拡大トレンドを維持しています。特に、企業の資金需要の変化や事業再編を背景とした売却案件が増加し、市場の厚みが増してきました。
ある調査によると、2017年度に発電出力ベースで300MWだった市場規模は、2021年度には1,200MWを超えると予測されています。この予測が示すように、年平均成長率(CAGR)は30%を超える水準であり、再生可能エネルギー関連投資の中でも特に注目される分野となっています。
市場の拡大は取引件数の増加だけでなく、取引の洗練化も進んでいます。専門的な仲介業者やコンサルタントが市場に参入し、デューデリジェンスの標準化や価格評価手法の確立が進むことで、より透明性の高い取引環境が整備されつつあります。
セカンダリー市場で特に活発な取引が見られるのが、10kW以上の事業用太陽光発電所です。10kW〜50kWの小規模事業用太陽光案件が多く、事業用太陽光発電のFIT・FIP導入量全体に占める割合は、容量ベースで32%程度となっていることから、この規模帯の案件が市場の中心を形成していることがわかります。
低圧区分(10kW以上50kW未満)の案件は、個人投資家や小規模法人にとって手が届きやすい投資規模であり、流動性も比較的高い傾向にあります。中古太陽光発電物件には、出力約1.3MWで約5.6億円、54kWで約1,100万円など、相場と同程度もしくは高い水準の物件もあります。特に54kW前後の低圧案件は、1,000万円台から2,000万円台で取引されるケースが多く、投資家層も厚いため、売却時の流動性が確保されやすいという特徴があります。
高圧区分(50kW以上)の案件も、セカンダリー市場で重要な位置を占めています。特に500kWから2MW程度の案件は、機関投資家や事業会社にとって魅力的な投資対象となっており、まとまった規模での取引が行われています。これらの案件は1億円から数億円規模の取引となるため、専門的なデューデリジェンスやファイナンシング体制が重要になります。
流通件数の増加に伴い、案件の質も多様化しています。発電実績が良好で設備状態も良い優良案件から、メンテナンスが不十分で出力が低下している問題案件まで、幅広い案件が市場に出回っています。投資家にとっては、適切な評価能力と見極める目が、これまで以上に重要になっているのです。
また、FIT制度による自然エネルギー発電設備の累積導入量の推移を見ると、2016年度までに設備認定が1億2千万kW近くまで進み、未稼働の設備が増えたが、2017年度以降、FIT制度の改定で事業認定への移行などもあり、2022年度末までに運転開始率は約76%に達した。特に太陽光発電の運転開始率は90%近くに達していることから、今後も稼働済み案件の売買が活発化する可能性が高いと考えられます。
セカンダリー市場で近年特に注目を集めているのが、1MW(1,000kW)以上のメガソーラー案件です。これらの大型案件は、機関投資家や大手企業、ファンドなどの参入により、取引が活性化しています。
メガソーラーのM&Aが活発化しており、異業種企業による太陽光発電業界への参入が目立ちます。多くの企業が、メガソーラーの利回りの良さに注目している状況です Mastory。実際、不動産投資と比較しても年間15%以上の利回りが期待できるケースもあり、災害などが起きない限り安定的な収益が見込めることが魅力となっています。
大型案件の取引では、事業会社ごと買収するM&Aの形態も増加しています。事業者ごと買収することで、建設コストをかけずに発電所を稼働できるM&A事例が増加しており、2015年4月に東京証券所にインフラファンド市場が創設されて以降は出口戦略としてインフラファンドへの事業譲渡を選ぶ企業も多く、取引の選択肢が広がっています。
メガソーラーにおけるM&Aの相場は、1,000万〜5億円ほどと言われています。事業規模の大きなものだと数十億〜数百億円、なかには1,000億円前後で取引されるケースもあり、取引金額の幅は非常に広くなっています。特に10MW以上の大規模案件では、複数の投資家による共同購入や、ファンド組成による資金調達など、多様なスキームが活用されています。
企業によるメガソーラー投資の動機は多様です。再生可能エネルギーの利用拡大によるESG経営の推進、電力コストの削減、あるいは純粋な投資収益の確保など、それぞれの企業戦略に応じた投資判断が行われています。特に、RE100やSBT(Science Based Targets)などの国際的な環境イニシアティブに参加する企業にとって、大型の再エネ発電所を保有することは、目標達成のための重要な手段となっているのです。
ただし、大型案件の取引では専門的なデューデリジェンスが不可欠です。設備の技術的評価、法務リスクの確認、財務分析など、多角的な検証を経て投資判断が下されます。こうした専門性の高い取引が増加することで、市場全体の成熟度も高まっていると言えるでしょう。

中古太陽光発電への投資が活発化している背景には、新規案件にはない明確なメリットが存在します。投資家、特に大規模な資金を運用する法人投資家にとって、これらのメリットは極めて魅力的です。
セカンダリー投資の本質的な価値は、「実績」という揺るぎない事実に基づいて投資判断ができる点にあります。新規案件では避けられない様々な不確実性が、中古案件では大幅に低減されているのです。ここでは、投資判断の核心となる3つの要因を詳しく解説します。
セカンダリー投資の最大の強みは、過去の発電実績という客観的なデータに基づいて収益予測ができることです。新規案件では、シミュレーションによる予測値に頼らざるを得ませんが、中古案件では実際の数値で評価できるため、投資リスクが大幅に低減されます。
太陽光発電におけるセカンダリー案件は、過去の発電量が明確であり、売電収入を予測できるのが特徴です。例えば3年分の月別発電実績があれば、季節変動のパターンや経年劣化の傾向、想定外の出力低下の有無などを詳細に分析できます。この実績データに基づく収益予測の精度は、シミュレーションベースの予測と比較して圧倒的に高くなります。
発電実績の分析から得られる情報は多岐にわたります。日射量と発電量の相関関係から、パネルの変換効率や設備全体の稼働率を評価できます。また、ストリング単位の発電データがあれば、特定の系統に問題がないかも確認可能です。夏場の高温時における出力低下の程度や、冬季の積雪の影響なども、実績データから読み取ることができるのです。
さらに、セカンダリー市場で取引されている中古太陽光発電は、過去の発電量や売電収入の実績、設備の稼働状況、利回りなどといった各種データを確認できます。これにより、業者が提示する理想的なシミュレーション値ではなく、実際の運用における収益性を評価できるという大きなアドバンテージがあります。
実績データがあることで、金融機関からの融資も受けやすくなります。将来の収益を予測する際の不確実性が低いため、銀行は担保評価を高く設定しやすく、融資条件も有利になる傾向があります。これは、レバレッジを効かせた投資を検討する投資家にとって、重要な要素となるでしょう。
新規案件では、土地の選定から設計、各種許認可の取得、建設工事、系統連系まで、実際に売電収入を得られるようになるまで最低でも1年、場合によっては2〜3年以上を要します。一方、中古案件では購入後すぐに売電収入が発生し、即座にキャッシュフローを確保できます。
セカンダリー案件は売電収入を得るまでに生じるトラブルと、その対応に追われるリスクが少ないという点も重要です。新規案件では、設備の初期不良や施工不良、想定外の地盤沈下など、稼働初期に様々なトラブルが発生する可能性があります。これらのトラブル対応には時間とコストがかかり、当初予定していた収益計画が大きく狂うリスクがあります。
中古案件では、こうした「初期トラブル」のリスクが既に解消されています。稼働開始から数年が経過していれば、主要な設備の安定性も確認されており、予期せぬ大きな問題が発生する可能性は低くなります。もちろん、経年劣化による問題は別途考慮する必要がありますが、それらは比較的予測可能なリスクと言えるでしょう。
投資効率の観点からも、早期のキャッシュフロー確保は重要です。投資資金の回収が早期に開始できれば、その資金を新たな投資に振り向けることができ、資金効率が向上します。特に複数の案件に順次投資していく戦略を取る投資家にとって、この時間的なアドバンテージは無視できない要素となります。
また、系統連系が完了しているという点も大きなメリットです。近年、再生可能エネルギーの急増により系統接続の制約が深刻化しており、新規案件では接続までに長期間を要したり、場合によっては接続自体が困難になったりするケースもあります。中古案件ではこの問題が解消されており、安定的な売電が保証されているのです。
セカンダリー市場では、実績データに基づく価格形成が行われるため、利回り水準が比較的安定しています。新規案件のように、シミュレーションの前提条件の違いによって利回りが大きく変動するリスクが少ないのです。
中古太陽光発電は新規設備より高い利回りを期待できるため、多くの太陽光発電関連企業や投資家などに注目されています。特に、高い買取価格(30円/kWh以上)が適用されている初期のFIT案件は、現在の市場環境下では希少価値が高く、投資対象として高い評価を受けています。
市場の成熟に伴い、中古案件の価格評価手法も標準化されつつあります。発電実績、残存買取期間、設備の状態、立地条件などを総合的に評価し、適正な価格を算出する手法が確立されてきました。これにより、過度に高値で購入してしまうリスクや、逆に優良案件を見逃してしまうリスクが低減されています。
セカンダリー市場での売却相場については、1MWあたり4億円前後の場合もあるようです。このような相場感が形成されることで、投資家は適正価格の判断がしやすくなり、安定した利回りを確保しやすい環境が整っています。
また、FIT制度による20年間の買取保証という制度的な安定性も、利回りの安定性を支えています。電力市場価格の変動リスクから隔離されており、長期的な収益予測が立てやすいという点は、特に保守的な投資戦略を取る機関投資家にとって重要な要素です。
ただし、出力制御の増加など新たなリスク要因も出現しています。九州電力管内などでは出力制御が実施されるケースもあり、こうした地域固有のリスクを適切に評価し、価格に反映させることが重要になっています。市場が成熟するにつれ、こうしたリスク要因も価格形成に織り込まれるようになり、より精緻な投資判断が可能になってきているのです。

セカンダリー投資には多くのメリットがある一方で、見落としてはならない重要な注意点も存在します。特に大型案件への投資を検討する法人投資家にとって、これらのリスク要因を適切に評価し、対処することが投資成功の鍵となります。
中古案件特有のリスクを理解せずに投資判断を下すことは、後々大きな損失につながる可能性があります。ここでは、投資判断において必ず確認すべき3つの重要ポイントを詳しく解説します。
中古案件投資で最も基本的かつ重要な要素が、FIT制度による固定価格買取の残存年数です。固定価格買取制度(FIT)による買取が保証されている期間は運転開始から20年間ですから、稼働から既に10年が経過している案件であれば、残りの買取期間は10年となります。
残存年数が短い案件ほど、買取期間終了後の「卒FIT」リスクを考慮する必要があります。現時点では、卒FIT後の電力買取価格は市場価格に連動し、FIT期間中と比較して大幅に低下する可能性が高いと考えられています。したがって、残存年数が10年を切るような案件では、買取期間内に投資額を回収できるかどうかを慎重に検証する必要があります。
買取単価も案件によって大きく異なります。2012年度認定の40円/kWh案件と、2020年度認定の13円/kWh前後の案件では、同じ発電量でも売電収入に3倍以上の差が生じます。高単価案件は希少価値が高く、その分購入価格も高く設定される傾向にありますが、残存年数との バランスを見極めることが重要です。
収益性の評価には、IRR(内部収益率)やNPV(正味現在価値)といった財務指標を用いた分析が有効です。単純利回りだけでなく、キャッシュフローのタイミングや将来の修繕費用、さらには卒FIT後の収益見通しまで含めた総合的な評価を行うことで、真の投資価値を見極めることができます。
中古案件の価値を左右する重要な要素が、過去のメンテナンス履歴と現在の設備状態です。適切な保守管理が行われてきた発電所と、放置されてきた発電所では、同じ築年数でも資産価値に大きな差が生じます。
確認すべきメンテナンス履歴には、定期点検の実施記録、清掃・除草作業の履歴、部品交換・修理の記録などが含まれます。特にパワーコンディショナー(PCS)の保守状況は重要で、既に交換済みなのか、これから交換が必要なのかによって、今後の修繕費用が大きく変わります。
設備状態の現地確認も欠かせません。太陽光パネルの目視検査では、変色や破損、ホットスポットの痕跡などをチェックします。可能であればIVカーブ測定やEL(エレクトロルミネセンス)検査といった専門的な診断を実施し、表面上は見えない不具合を発見することが望ましいでしょう。
架台や基礎の状態も重要な確認ポイントです。金属部分の腐食、ボルトの緩み、地盤の沈下や傾きなどがあれば、将来的に大規模な補修が必要になる可能性があります。特に海岸近くの発電所では塩害による腐食が進行しやすく、注意が必要です。
配線や接続箱の状態、防草対策の効果なども確認すべき項目です。雑草が繁茂していると、パネルへの影の影響だけでなく、火災リスクも高まります。適切な防草対策が取られているか、または今後の対策費用がどの程度必要かを見積もることが重要です。
中古案件投資で見落とされがちだが極めて重要なのが、土地権利関係と法務リスクの確認です。これらの問題が後から発覚すると、事業継続そのものが困難になる可能性があります。
土地が自己所有か賃借かによって、投資判断は大きく変わります。賃借地の場合、賃貸借契約の内容を詳細に確認する必要があります。残存契約期間がFIT買取期間より短い場合、契約更新時に地代が大幅に値上げされるリスクや、最悪の場合更新を拒否されるリスクもあります。契約書に地代の改定条項がある場合は、その内容も慎重に確認すべきです。
土地の登記簿謄本を確認し、所有権や抵当権の設定状況をチェックすることも不可欠です。抵当権が設定されている場合、万が一債務者が返済不能に陥れば、発電所の土地が差し押さえられる可能性があります。
また、公道からのアクセス権(通行権)が法的に確保されているかも重要な確認事項です。私道を通行する必要がある場合、通行権が明確に設定されていなければ、将来的にアクセスが制限されるリスクがあります。
FIT認定の内容と変更手続きの履歴も確認が必要です。設備の変更や所有者の変更があった場合、適切に変更認定の手続きが行われているか確認します。手続きの不備があれば、認定が取り消されるリスクもあるため、事前のデューデリジェンスで必ずチェックすべき項目です。
開発許可や農地転用許可などの行政手続きが適切に行われているかも確認します。特に1ha以上の開発を行っている場合や、農地を転用している場合は、関連する許認可の取得状況を確認することが重要です。許可を取得せずに開発が行われていた場合、最悪のケースでは原状回復を命じられる可能性もあるため、十分な注意が必要です。

中古太陽光発電市場は、今後さらなる拡大が見込まれています。政府の再生可能エネルギー政策、企業の脱炭素経営への取り組み、そして既存発電所の大量供給という複数の要因が重なり、市場は新たな段階に入ろうとしています。
投資家にとって、市場の将来動向を理解することは、長期的な投資戦略を立てる上で不可欠です。ここでは、2030年に向けた政策動向、メガソーラー市場の変化、そして企業需要の拡大という3つの視点から、市場の展望を分析します。
日本政府は2050年カーボンニュートラル実現に向けて、2030年度の重要なマイルストーンを設定しています。2021年10月に閣議決定された第6次エネルギー基本計画において、2030年度の温室効果ガス46%削減に向けた野心的目標として、電源構成の再エネ比率を36-38%(合計3,360〜3,530億kWh程度)の導入を目指すこととしました。
この目標達成には、新規導入だけでなく既存設備の有効活用も重要な要素となります。2023年12月末時点の導入量は73.1GWで、2030年導入目標103.5〜117.6GWに対して達成には更なる加速が必要な状況です。既存の稼働済み発電所が適切にメンテナンスされ、長期的に運転を継続することは、この目標達成に直接貢献します。
特に、リードタイムが短い太陽光は現状のほぼ倍増となる14-16%の電源構成比を目標としており、太陽光発電の役割は極めて重要です。新規案件の開発が困難になる中で、中古案件の流通を促進し、優良な資産として維持・管理していくことは、国のエネルギー政策の観点からも意義があると言えるでしょう。
政府は屋根置き太陽光や営農型太陽光など、新たな設置形態の普及にも力を入れています。2030年において新築戸建住宅の6割に太陽光発電設備が設置されることを目指すとの目標を掲げており、太陽光発電全体の導入拡大が進むことで、セカンダリー市場の潜在的な供給源も増加していくことが予想されます。
FIP制度への移行も市場に影響を与えています。2024年度から、250kW以上においてFIP入札を実施しており、市場統合型の新たな売電モデルが広がりつつあります。こうした制度変化により、固定価格での買取が保証されているFIT案件の希少価値は、今後さらに高まる可能性があります。
メガソーラー市場では、事業者の淘汰と再編が進行しており、これがセカンダリー市場の拡大を後押ししています。太陽光発電業界では倒産件数が増加しており、この点もM&A件数増加に拍車をかけています。経営難に陥った事業者が保有する発電所が市場に放出されることで、取引機会が増加しているのです。
M&Aの急増による獲得競争の激化で、高い利回りを見込める優良案件はすでに売却済みとなっているケースが多々あり、利回りの良い案件を探し出すのが困難になっていますという指摘もありますが、これは逆に言えば市場の流動性が高まっていることの証左でもあります。
大型案件では、インフラファンドを通じた取引も活発化しています。東京証券取引所に上場するインフラファンドは、複数のメガソーラーをポートフォリオとして保有し、投資家に分配金を支払う仕組みです。事業会社が出口戦略としてインフラファンドに売却するケースも増えており、機関投資家が間接的にメガソーラーに投資する道も広がっています。
また、企業の事業再編に伴う大型案件の売却も今後増加する可能性があります。太陽光発電事業を本業としない企業が、ポートフォリオ見直しの一環として保有資産を整理する動きは継続すると考えられます。特に、初期のFIT高単価で開発された優良メガソーラーは、高値での売却が期待できるため、売却の好機を狙う企業も多いでしょう。
再編の過程で、設備の統合やリパワリング(設備更新)を伴う取引も出現する可能性があります。既存の発電所を買収し、最新の高効率パネルに更新することで発電量を増加させ、収益性を向上させるという戦略も、今後の市場拡大の一つの方向性と言えます。
企業の脱炭素経営への取り組みが加速する中、再生可能エネルギーの確保は経営上の重要課題となっています。RE100やSBTといった国際的な環境イニシアティブに参加する日本企業が増加しており、これらの企業にとって再エネ電力の調達は必須となっています。
こうした企業が自社で使用する電力を賄うために、太陽光発電所を購入するケースが増加しています。再生エネルギーへの関心が高まっていることで、太陽光発電の導入を検討する企業が増えている状況です。特に製造業や物流業など、電力消費量の多い業種では、安定的な再エネ電力の確保が競争力に直結するため、積極的な投資が行われています。
自家消費型の太陽光発電では、FIT制度に頼らない新たなビジネスモデルも登場しています。PPAモデル(Power Purchase Agreement)では、第三者が企業の敷地内に太陽光発電設備を設置し、発電した電力を長期契約で供給します。こうした柔軟なスキームの普及により、企業の再エネ利用がさらに拡大する可能性があります。
2030年の太陽光発電の累積導入量の見通しでは、導入場所として戸建住宅(9,090万kW)と農地(1億650万kW)が多く、両方を合わせて全体の約半分を占める見込みですが、事業用・産業用の大型案件も引き続き重要な役割を担います。
サプライチェーン全体での脱炭素化を求める動きも、企業需要を押し上げています。大手企業が取引先企業にも再エネ利用を要請するケースが増えており、中小企業も含めた幅広い層で再エネ導入の必要性が高まっています。こうした企業群が、既存の優良な太陽光発電所を取得する動きは、今後さらに加速すると予想されます。
投資収益とESG経営の両立という観点からも、中古太陽光発電投資は魅力的な選択肢です。適切に評価された優良案件に投資することで、安定的な収益を確保しながら、環境への貢献をアピールできるという、まさに一石二鳥の効果が期待できるのです。
※本記事の執筆にあたり、以下の公的機関のデータを参照しました。
・資源エネルギー庁「太陽光発電について 2024年12月」https://www.meti.go.jp/shingikai/santeii/pdf/100_01_00.pdf
・資源エネルギー庁「再生可能エネルギーの導入状況 2024年6月13日」https://www.meti.go.jp/shingikai/enecho/denryoku_gas/saisei_kano/pdf/063_s01_00.pdf
・環境エネルギー政策研究所「国内の2023年度の自然エネルギー電力の割合と導入状況」https://www.isep.or.jp/archives/library/14885
・矢野経済研究所「太陽光発電所セカンダリー市場に関する調査を実施(2020年)」https://www.yano.co.jp/press-release/show/press_id/2506
・資源エネルギー庁「2030年に向けた今後の再エネ政策 2021年10月14日」https://www.enecho.meti.go.jp/category/saving_and_new/saiene/community/dl/05_01.pdf
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